お正月の思い出
年が明けると、歳末の慌ただしさが一変して、ゆったりと時間が流れる気がしていた。親戚も少なかったので、年始の挨拶回りもすぐ終わるのが常。
お年玉も、小さい頃は自分で使える権限はなかったし、自由に使えるようになっても、正月は今のようにお店は営業してなかった。その年一年のお小遣いの足しにしていたような気がする。
お正月休みには祖母が泊まりに来て、それがなんとなく嬉しかった。
普段は私のいとこと暮らしてる祖母が、その時だけは自分ちのおばあちゃんになったような気がしたからだ。
娘である私の母は、祖母がいる間中、いろんな話をしていた。愚痴はもちろん、近所の噂とか、私のこととか、とにかくずっと話していた。
友人の多い社交的な母ではあるが、人からどう思われるかを常に気にしていて、裏の裏まで勘繰るところもあったから、心置きなく話せる相手というのは祖母だったのだと思う。
私はいつも、母が思い描く理想の孫としての態度や言動を暗に求められてる気がして、それを窮屈に感じていたなと思い出す。
母は、元気いっぱいで全身で嬉しさを表現する、おばあちゃん大好き!みたいな孫の姿を望んでいたと思う。
ある時、母が「どうしておばあちゃんが来てるのに話をしないの」と言った。
私は「何を話したらいいかわからないから」と答えた。
母は「何だっていいんだよ」と露骨にがっかりした顔をして、祖母と暮らすいとこを引き合いに出し、私のことを下げ、祖母にも不満気にこぼした。
母の望み通りにしないと怒られる気がして、それなら何もせずにいた方がいいと、全てに消極的になるのが私の常で、その姿勢は今もずっと、私に影を落としている。
祖母は、私が内心、祖母のことが好きで、でもそのことを上手く表せないことを知っていただろうか。
今も、お正月の穏やかな光に部屋が照らされると、なんとなく祖母の近くにいて、話しかけたい、でもこんなこと言ったら母に怒られるかもと逡巡する私の姿が浮かんでくる。